「金持ち父さん」のマネをしないで賢く投資しよう

金融教育が高校で扱われることになりました

これまで「子供がお金の話をするのは好ましくない」という日本の風潮もあり、学校で金融教育が取り上げられることはありませんでした。しかし国の生涯保障が財政難により後退する中、「生涯の生活を設計するための意思決定」学習活動の一環として、2022年度から高校家庭科の授業で資産形成が教えられることになりました。講師として金融庁職員が教壇に立つ運用も検討されているようです。

money-square.net

これまでも「だまされない・無駄遣いしない」といった消費者教育は授業で取り上げられていました。しかしこれからは金融教育を受けたお金儲けに先入観を持たない高校卒業生達が、自助努力として積極な資産形成行動を起こしていくことになるはずです。

金融知識不足への気付きの原点「金持ち父さん貧乏父さん」が与えたインパク

学校教育を通じてでは金融知識(ファイナンシャルインテリジェンス)を得ることができない、と最初に社会へ広く知らしめたのは著書「金持ち父さん貧乏父さん」だったと記憶しています。

Robert.T.Kiyosaki(ロバート・キヨサキ)著「Rich Dad Poor Dad」が世界的ベストセラーになり、日本でも2000年11月に筑摩書房より日本語版「金持ち父さん貧乏父さん」が刊行されヒットしました。

一部のビジネスマン向けと考えられていた経済本の類が、一般教養本として大ヒットした要因は色々あると思いますが、学校教育で社会の仕組みを理解した気になっていた人々へ「資産形成のことが全く理解できていない」との気付きを与えたインパクトの大きさがヒット要因の一つだったと記憶しています。

刊行から約20年を経て学校教育でも金融知識を扱うようになり、時代の変化がやっとこの本に追いついてきたとも言えます。

金融知識へのニーズが高まる今、その転換点となった「金持ち父さん貧乏父さん」の内容を改めて振り返りたいと思います。

現在、日本語版「金持ち父さん貧乏父さん」は改訂版が2013年11月8日に筑摩書房から刊行され、この他数多くのシリーズ本が出版され続けています。

筑摩書房「金持ち父さんシリーズ」

www.chikumashobo.co.jp

 要約、2人の「お父さん」の価値観の違い

「金持ち父さん貧乏父さん」の内容を見ていきましょう。

ストーリーは2人の「お父さん」の生き方に学ぶ、著者の成長を辿って展開して行きます。

著者の子供時代には、まだどちらかというと近所の中では貧しい方だった二人のお父さん、

  • 友達(マイク)のお父さん … 高い教育は受けていないが自営業主をしている。
  • 自分(ロバート)のお父さん … 高い教育を受け公務員として働いている。

のお金への考え方の違いに迷いながらも、やがて自分のお父さんではなく友達のお父さんの考え方に基づいて行動するよう成長していきます。高い教育を受けていたのに金融知識が欠落していた自分のお父さんは、給与所得から税金や請求書を払い続けるラットレース(回し車を懸命に廻し続けるネズミみたいだ、との例え)の暮らしから抜け出すことができず資産のないまま「貧乏父さん」として一生を終えます。他方、あまり教育を受けないまま社会に出た友達のお父さんは、従業員を増やしながら自分のビジネスを拡大し続け、ハワイ州有数の「金持ち父さん」として資産を築いて息子に事業継承する、というストーリー立てになっています。

 どちらのお父さんも一生懸命働いた点に違いはないのに、なぜ大きな保有資産の差が出てしまったのか、その原因はお金の使い方にあるというのが筆者の学んだことです。

  • 金持ち父さん … 収入を資産の購入に使う
  • 貧乏父さん … 収入を負債の購入に使う

f:id:gudanama:20210528174111g:plain

資産と負債の違い

本書で例題として挙げられている「持ち家購入は資産か負債か?」という問いは、読者にファイナンシャルインテリジェンスの有無を端的に問いかけます。

正解はシンプルに「場合による」です。つまりキャッシュフローがプラスの結果なら資産、マイナスの結果なら負債、何を買ったかは問題ではない、というのが答えになります。

f:id:gudanama:20210528175843g:plain

資産になる持ち家と負債になる持ち家

本書の特徴、金持ちになる方法は記述されていない

本書の特徴的なことは、よくある自己啓発本にありがちな「確実に儲かる方法」が記述されていないことです。これは考えてみれば当たり前のことで、もし確実に儲かる方法がこの世に存在するのであれば、その方法を誰かに教えた時点で真似してもほとんど儲からない方法に退化済のはずだからです (もし儲かるのなら人に教えず自分だけがこっそり実行して大きく儲けるはずだから)。筆者は「自分のやってきたことも含めて、特定の投資方法をみなさんにお勧めする気はない」と明確に記述しています。ファイナンシャルインテリジェンスを発揮して市場の動向に応じて投資先を変えろ、とも教えています。例えば、筆者が行っていたような不動産転売により資産を増やす方法は、長期スパンで見れば不動産価格が上昇し続ける状況の中で、一時的な市況変化により安価に投資用物件を仕入れ可能だった当時のアメリカ(本書では1990年代初頭のアリゾナ州フェニックスの話とある)で通用した事例に過ぎません。しかもその後、思いがけない好景気が地域産業に訪れ不動産価格が高騰したケースなので、いつでもどこでも通用する投資方法ではありません。

 一方、他書ではあまり見かけない、「金持ちになるロードマップ」の記述も特徴的です。

自分が金持ちになるイメージを膨らませることで、読者に金持ちになるための努力を促そうとしています。

  1. 基礎的なお金のフローを学ぶ(損益計算書貸借対照表に相当する概念)
  2. 昼間の自分の仕事を続けながら、一方で自分のビジネスを築いて資産を蓄える
  3. ビジネスを会社組織化して株保有者となり、結果として節税する
  4. ビジネス規模を拡大し続け、お金がお金を生む体制を作る

本書には誤読を避けるべきポイントがいくつかあります。その一つが本書のどこにも「今すぐ勤め先なんかさっさと辞めて自分のビジネスを始めろ」とは書いていないことです。大きな資産を築くためには、最初にスモールビジネスや自分の今の仕事によって種銭を稼ぐことが必要で、そのため「昼間の仕事を続けながら…」と現実的なアプローチが提案されています。

「金持ち父さん貧乏父さん」への様々な批評

本書はベストセラーになったため、出版当初からたくさんの賛否両論を招くことになりました。その反響は今も続いています。比較的簡単に誰でも参照可能な近年の批評をYouTubeの中からいくつか取り上げてみます。

その1「中田敦彦YouTube大学:【金持ち父さん①】お金持ちになる手順」

肯定的な立場での動画を紹介します。

中田敦彦YouTube大学」は、お笑いタレント・YouTuberとして活躍する中田敦彦さんが自分の学んだ文学・経済・歴史を解説するシリーズです。

改訂版「金持ち父さん貧乏父さん」のまとめ動画が3本立てで公開されています。

【金持ち父さん】お金持ちになる手順

www.youtube.com

【金持ち父さん不労所得を得るために

https://www.youtube.com/watch?v=1K-rjXJobxA&t=38s

【金持ち父さん】日本のファイナンシャル・リテラシー

https://www.youtube.com/watch?v=0BEq6SJZDpA&t=60s

 

最初の動画で中田敦彦さんが20年前に初版を読んだ時の感想を述べており、大変ショックを受けたと発言されています。ショックの原因についてははっきり語られていませんが、お金について理解していないことに気付いたのが原因ではないかと思います。インパクト受けたことを語る一方で、「ではどう行動に落とし込めば良いのか当時方法が分からなかった」と述べています。この感想が初版出版当時の多くの読者反響だったと記憶しています。中田敦彦さんのYouTube動画では、「本書を読んで刺激を受けた、金持ちを目指して頑張って行こう」と感想を述べています。

その2「【ひろゆき】『金持ち父さん貧乏父さん』を読んだ感想【切り抜き】」

否定的な立場の動画を見てみましょう。

投資家・YouTuberとして経済問題への評論が多い、元2ちゃんねる管理人の「ひろゆき」(西村博之)さんが「金持ち父さん貧乏父さん」についてコメントしており、その様子をYouTube上で見ることができます。短い動画ですが核心を突いていると思います。この本を読んだ人々が考えなしにマネすることの危険性を指摘しています。

 

ひろゆき】『金持ち父さん貧乏父さん』を読んだ感想【切り抜き】

www.youtube.com

批判理由が次のように述べられています。

「この本に書かれている資産を形成するための考え方自体は正しいと思う。ただしこの本に書いてあることをマネしても金持ちにはなれない。日本でロバート・キヨサキと同じ資産形成をやろうとすれば常に相場値上がりが続く銀座などの不動産を転売し続ける必要があるが、そのような不動産を取得するための原資を貧乏人が準備することは不可能」。

その3「金持ち父さんを読んでも金持ちにはなれません。」

もう一つ、批判的な立場での動画を紹介します。

起業ノウハウを配信している、ビジネス系YouTuber「個人で生きる道-ショウ」さんの動画です。前出の両名ほど有名人ではありませんが、その意見は核心を突いていると感じました。また「ひろゆき」さんが言及しなかった部分を噛み砕いて補完していると思います。

金持ち父さんを読んでも金持ちにはなれません。

www.youtube.com

 批判理由が次のように述べられています。

「本書に書いてある考え方自体は正しい。だがこの本を読んで、一般人がお金持ちになる方法を学べると思い込むのは間違いだ。この本の成功体験に触発され、高揚した気分で知りもしない不動産投資に手を出しても金持ちにはなれない。お金持ちが(資産価値防衛のために)不動産投資するのなら別だが、現代の日本で不動産投資により資産を増やし続けて行けるはずがない。この本でも不動産投資は手段の一例として取り上げられているだけで、マネしろとはどこにも書いていない。原資もないのに事業用途の不動産を仕入れできるはずがない。一般人は本書事例をマネできる機会に遭遇しないので、いくら精読しても無駄。成功することと本を読んで満足することには何の因果関係もないはずなのに、まるで成功したような気にさせてしまう本だ。もしビジネスを起こすつもりならスモールビジネスから始めて頭を使い障害を乗り越えることで体得すべきだ。考えなしに投資へ手を出す者は情報社会のいいカモで、何の成果にも結びつかない。大金持ちのロードマップの先の方など、投資を始めた一般人にとって縁のない話で意味がない。」

結論、逃げ道としての投資家を目指さず、賢い資産形成をしましょう

「金持ち父さん貧乏父さん」は、資産形成について自分が何も理解していない、という気付きを与えてくれる大変意義のある名著です。この本に書かれている資産形成の考え方そのものは正論で、間違っていると指摘する人はどこを調べても現れて来ません。

しかし、この本の「金持ち父さん」や著者のやり方をマネすれば金持ちになれるんじゃないか?との誤読を誘う恐れのある罪作りな本でもあります。この本には不動産投資が頻繁に登場しますが、どこにも不動産投資がお勧めとは書いてありません。マネしようと思ったところで、世界中の多くの人々が既に読み終えているこの本に情報商材としての残存価値はありません。

ファイナンシャルインテリジェンスを磨くことは、正しい投資判断を身に着ける上で重要です。高校の授業で取り上げられることには意味があります。しかし本を読んだり授業を受けたりしても、金持ちになる方法を知ることには結びつきません。

本書にも記述があるように、金持ちになるためには経験・知識・投資期間・自己抑制能力といった資質が必要です。だから「被雇用者として一生あくせく働くなんてバカバカしい、楽して儲かる投資家に転身して人生一発逆転を狙おう」と考えもなしに逃げを打つのは間違いです。これから現役高校生が学んでいくのと同様に、我々も金融知識を身に着けて賢い資産形成を行っていくべきです。